管理栄養士が今後「摂食障害の方を診断する」ことがあるかもしれません。
私は特別養護老人ホームの管理栄養士なので、ご入居されている方の栄養ケアの計画を立て、実施していくことが仕事になりますが、
医療機関で働く管理栄養士さんのなかには「栄養診断」といって、患者さんの栄養状態を管理栄養士が診断し、その栄養診断を解決するための栄養介入を考え実施する取り組みをしています。
栄養診断には診断名それぞれにコードがあります。
医師は問診や検査値などから病気の診断をしますが、管理栄養士も同様に、定義や該当する兆候、考えられる原因から適する診断を探し、「栄養という観点」から栄養状態の診断をします。
例えば、医師が「糖尿病」と診断した患者さんに対して栄養診断を行う場合、
問診や検査値はもちろん、生活環境や本人の訴えや心理面など、客観的データと主観的データから、
「本人も家族も糖尿病についての認識や知識がなく、病気に関して全くの無関心であること」が、糖尿病になった1番の要因である場合や、糖尿病を治療していく上で1番優先度の高い解決課題であった場合、
「NB-1.1 食物・栄養関連の知識不足」
といった栄養診断となります。
栄養診断は個人の置かれている状況で異なるため、完全に個別ケアです。
同じ糖尿病の患者さんでも、病識もあり、知識もあって、そこそこ自炊しているような方の場合、先のような栄養診断とはなりません。
「動くことが億劫でほとんど外に出ないこと」が、なかなか治療効果が得られない1番の要因で、優先度の高い解決課題だと考えられた場合は、
「NB-2.1 身体活動不足」
といった栄養診断となります。
実際の診断まではモチロンもっと緻密なアセスメントを行っていますし、PES報告書というもので栄養診断を書き上げ、そこから栄養介入がスタートします。
管理栄養士がこの栄養診断を用いて栄養介入(栄養管理プロセスといいます)していこうとなったのは結構最近のことなので、取り組んでいる病院はまだ少ないようですが、
医師の診断のように共通の診断をすることで、例えば患者さんが他の病院に移った場合でも、スムーズに栄養ケアができるということから、今後、この栄養診断をする栄養管理プロセスが主流になるのではとのことです。
さて、この栄養診断ですが、
摂食障害の栄養診断コードがしっかりと存在しているのです。
「NB-1.5 不規則な食事パターン(摂食障害、過食・拒食)」
栄養診断をする際の栄養評価の項目として、生化学データ、身体計測などそれぞれあるのですが、
この中で、「栄養に焦点を当てた身体所見」と「食物栄養関連の履歴」には、
摂食障害歴25年以上の私から見ても、よく観察されたな~と思ってしまうような所見がたくさんありました。
これには私も忘れてたといったリアル所見があったので、ピックアップしてお伝えしたいと思います。
【栄養に焦点を当てた身体所見】
- 顔面や胴体の産毛(うぶげ)の発生(拒食)
私は産毛が生えるまでにはいきませんでしたが、
低体温故に背中などに産毛が密生すると聞いたことがあります。生体防御ですね。
- 歯のエナメル質の損傷(過食嘔吐)
嘔吐による胃酸の逆流で歯が溶けます。エナメル質が溶けて私の歯は茶渋が付きやすくなってしまいました。
- 耳下腺の肥大
過食や嘔吐によって唾液の分泌が異常に多くなり、唾液腺が発達・肥大化して腫れます。
過食嘔吐していた友人も唾液腺が腫れてと悩んでいましたね。嘔吐は思っている以上に体内の水分を奪い、脱水を引き起こすんじゃないかと思います。嘔吐した後は翌日まで喉がカラカラでした。唾液も水分から作られますので、唾液を作ろうと唾液腺も発達するのかもしれません。
- 自己誘発嘔吐による手の甲の関節にできるたこ(吐きだこ)
「吐きだこ」と医療分野でもしっかりと明記されていて驚きました。
はい、私も当時しっかり吐きだこがありました。跡がつかないようにビニール手袋をしたり、ラップを巻いたりしてみましたが、ガサガサと邪魔で嘔吐できず、結局取るはめになりました。
- 徐脈(心拍数<60拍/分)
20歳の時、まだ過食症なりたての頃ですね。当時通っていた看護学校で(中退しています)脈拍の測定をした記憶があります。58拍/分だったと思いました。講師の先生に「スポーツやっていたの?スポーツ心臓ね」と言われました。いやいや、スポーツなんてやっていません。当時も摂食障害が原因だろうと思っていました。
【食物栄養関連の履歴】
- 食事が提供されるイベントの回避
自分が許したもの以外の食べ物を口にすることは自分が破壊することなので、調理実習とか会食など、強制的に食べなければいけない場面は恐怖でした。
- 最新の食事の流行への知識
食べ物や栄養への執着があるので、食べたことはなくても「どこどこの何々だ」みたいに知識だけはありました。
- 栄養の専門用語への過度な信頼と、栄養内容の偏見
糖質OFF商品、低脂肪商品を絶対的に信頼していた時がありました。
大切なのはバランスだと気が付いてから、これらの商品にあえて手を伸ばさなくなりました。
- 食物選択に柔軟性がない
要は、自分が許すもの以外は口にしたくない、口にできないので、特定のものばかりを食べる傾向になります。
- 下剤・浣腸・利尿剤・興奮薬のご使用
利尿剤を飲んで浮腫みを取ろう、体重を減らそうとする方がいるようですが、電解質のバランスを崩すので危険です。
水分が奪われれば身体は水分を貯め込もうとするので、イタチごっこです。
- 過度の香辛料の使用、食物の混合
カプサイシンが痩せると認定され、辛いものを好んで食べる人が増えました。激辛料理を食べるテレビ番組もありますし、つい最近も激辛ポテトチップスを食べて体調不良を訴えた高校生がいました。
激辛って消化器系に大きな負担を強いるので、本当に危険だと感じています。
激辛って消化器系に大きな負担を強いるので、本当に危険だと感じています。
刺激物なので、燃え上がる炎を身体に入れている感覚だと思います。カプサイシンとか香辛料の作用は胃の中で消滅されるわけではありません。炎のままに小腸・大腸まで届いて肛門から放出されます。
炎に触れた細胞はやけどのように傷付きます。逆流性食道炎や胃潰瘍、痔になる可能性も高まります。
カプサイシンに頼らなくても痩せる方法はあるので、使用する際は控えめにしてほしいなと思います。
最後に、「NB-1.5 不規則な食事パターン(摂食障害、過食・拒食)」という栄養診断に、「病因(原因/危険因子)」としての記載もあります。
【病因(原因/危険因子)】
- 家族や社会、生物学的、遺伝学的、環境的に痩せたいと願う強迫観念
- 自尊心への顕著に影響する体重の調整・先入観
- 自分のボディーイメージと食行動との乖離
- 体重に対する過度のこだわり
- 自分の体重・体型への過剰評価の影響
1番初めに書かれている「痩せたいと願う」というのが、よく観察されていると私は感じました。「痩せたいと思う」ではないんですね。摂食障害の人は「願う」んです。追い詰められたように痩せたいと切望するんですよね。
摂食障害の病因(原因/危険因子)も、よく観察されていると感じますが、
これらに1つ加えてもいいのなら、以下のような記載があってもいいんじゃないかと思っています。
「アイデンティティの一時的な喪失、または、アイデンティティの確立期による自己肯定感の欠如」
広い視野を持って捉えると、摂食障害はどんなことなのか?
摂食障害になる時は、どんなことに迷い、悩んでいるのかが、少し分かりやすくなるんじゃないかと感じています。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。