「君、アノレクシア(拒食症)だろ」と言われた時の話。

拒食症の人は病的な細さで「そうだ」と分かるといわれています。

 

ある一定ラインを超すと身体のラインがギスギスして丸さがなくなり、体脂肪とともに筋肉量が減少するので、削げたような印象になるかと思います。

マンガやアニメの病人って、頬がコケて身体の厚みがなく薄っぺらく、骨すじを際立たせ、笑顔もどこか儚く描かれると思いますが、拒食症もそんな感じです。

 

そんな風貌の人が自分の細さを気にもせず、逆に披露するように、

棒のような脚をあらわにして歩いていたり、風に吹かれたら飛んでいってしまいそうな肩を露出して歩いていたら、やっぱり拒食症を疑ってしまいます。

 

そんな拒食症らしい人に遭遇する確率としたらそう高くないと思いますが、

見かけても、職場にいても、学校にいても、

大抵は、気にしつつもそっとしておくか、心配する言葉をかけるか、ぐらいでしょう。

 

なんだか触れてはいけないような、オブラートに包まないといけないような気にさせられる

それだけ、痩せてくる、痩せている、ということはセンシティブなことだということです。

 

私は過去に1度だけ、そのセンシティブなことをズバッと真正面から指摘されたことがありました。

後にも先にもこの時だけのことで、今でもよく覚えています。

 

ちょっと恥ずかしさの混ざる話なのですが、まあ摂食障害を綴っている時点で、もう恥ずかしいとかよく分からなくなっているので、いいかなと思っているので書いていきたいと思います。

 

数年前のまだ結婚していた時のこと。

旦那さんが家にお金を入れないと言い出し、本当にお給料が銀行口座に入らない時がありました。

 

既に「なんで?」とか聞くようなことも無駄に思える感情に至っていたので、私は受け入れることにしました。

生活に余裕がないとかではなかったけど、やっぱりお金が入ってこないという不安と共に、旦那さんに対して強い怒りと反発心を抱きました。

 

いつも後先考えず、今起きていることに対して湧き起こる感情に従い、すぐに行動してしまう私は、夜のアルバイトをすることにしました。

 

子どもたちはまだ小学生だったし、夜に大人が不在な家なんて危なくてできればやりたくありませんでした。

けれども、旦那さんへの強い反発心「そうくるなら何としても金つくってやる」という思いを止められませんでした。

 

当時もう離婚を見据えて準備はしていました。

管理栄養士として就職するために、昼間はパートの合間にパソコン教室に通っていました(パソコンスキルがなかったので)。

パソコン教室に通うことを優先順位として考え、昼間にパートを増やすことは難しいなと短絡的な頭で導き出した答えが、夜のアルバイトでした。

 

もともと治安が良いとはいえない地域に住んでいるので、そういうお店は比較的多くありました。

家にすぐに帰ることができる駅付近で、1番品が良さそうなパブを選びました。深夜0時で就業というところも早く帰宅できるのでここしかないと思いました。

 

「無理してお酒を飲まなくていいから」「うちはこの辺りの中小企業の社長さんとか医者とかが来てくれる、非常識な人はこないから」

そう言われていたこともあり、

強引にアルコールを進める客は来なかったし、働いている女性の年齢層も高めでしっとりとした雰囲気で、

時折顔を見せるママにも気に入って頂き「あなた磨けば光るわよ~」と、微妙な気持ちになるお言葉を頂いた場所でした。

 

働き始めて数日、常連だという50代くらいの歯科医師産婦人科医を連れて来店しました。

歯科医師はお気に入りの子を指名してご機嫌に盛り上がっていて、産婦人科医のお相手として新人の私が同席することになりました。

 

ご機嫌に盛り上がって早々に、会話のネタが新人の私へと向きました。

歯科医師に「なんでこの仕事やろうと思ったの?」と聞かれたのは覚えていますが、何と答えたかまではよく覚えていません。

 

そして次に歯科医師が突然

「君、アノレクシアだろ」

そう言い放ってきました。

 

アノレクシアとは、いわゆる拒食症のことです。

『神経性無食欲症(しんけいせいむしょくよくしょう、英: anorexia nervosa ; AN)とは、極度の栄養摂取拒否とそれによる病的な痩せを主徴とする神経性の摂食障害であり、精神疾患の一種である』

Wikipediaより

 

突然放たれた言葉に私は驚きました。

人間図星を突かれると、撤回しようと余計なことを口走るのは本当なんですね。

 

私はものすごい強い口調で

「違います!違いますよ!ちゃんと食べてますし生理もきてます!」

 

生理とか言い出し、もう中学生ってくらいアホですよね。アホすぎるんですけどそう言いました。

 

歯科医師は冷静に

「君の年齢では痩せすぎだ。君はアノレクシアだ。」

またもや断定して言ってきました。

 

アホな回答しかできなくなっている私は言いました。

「いや全然痩せてませんよ。BMIは18.5(適正値)ありますから!(適正値ではなかった)」

「私は管理栄養士免許を持ってるんですから、栄養のことくらい分かりますよ!」

 

歯科医師は「管理栄養士なのか?」と食い付いてきたので、

私は離婚するためにこれからペーパー免許を脱して管理栄養士として働きたいんだと話しました。

 

そこから歯科医師は自分のクリニックのことを話し始めました。

自分のクリニックには管理栄養士がいる、

歯だけではなく全身の健康管理を考えたクリニックなんだと力説し始めました。

 

アノレクシアから離れてくれたけど、何だか熱くなっている歯科医師に対して私は、

管理栄養士免許を使って、チラッと求人でみて興味を持った遺伝子ダイエット診断(遺伝子的に個人に向いているダイエットや食事をソフトで判定する仕事というイメージ)をする仕事に就くことができれば楽しそうだと思っていると伝えると、

 

歯科医師は「そんな管理栄養士の免許の使い方はない。考えなさいよ。」と今度は叱るように言ってきました。

 

上からの態度に、そういう店だしお客様だから当たり前という理解ができない私は言いました。

「なんでそんなこと言われなくちゃいけないんですか?遺伝子診断だってなんだって立派な仕事だと思いますけど!」

 

そこから歯科医師はクリニックの管理栄養士がどれだけ患者の役に立っているかということ、これから管理栄養士の活躍の場は対人相手にどんどん広がっていくんだと話してきて、

私は大変失礼で恥ずかしいことに、自己中心的な稚拙な職業観や人生観を歯向かうように話したように記憶しています。

 

両者しゃべりまくってトーンダウンしてきた頃に、

歯科医師がきっと呆れたのでしょうね「頑張りなさい」と手を出してきてくれたので、「ありがとうございます」そう言って握手してようやく話は収まりました。

 

自分を取り戻した頃、ふと気が付くと、歯科医師のお気に入り子はダルそうなムカついてそうな表情をして私を見てきて、

店長と副店長がちょっと距離を置いた場所から私に何ともいえない視線を送っていたのを覚えています。

 

その後は、他の女性も入り空気も変わり仕切り直し。歯科医師はお気に入りの子とご機嫌に、産婦人科医もカラオケして、私は手拍子して周囲の空気に合わせるようにしましたが、

歯科医師の発した「アノレキシアだろ」という言葉が始終頭をぐるぐる駆け回っていました。

 

歯科医師に拒食症だと指摘されたこの頃は、モチロン拒食症なんかではなくて、頻度こそ少なくなっていましたが過食嘔吐していました。

過食嘔吐以外の食事は、太らないようにかなりコントロールしていたので、拒食症に近いと言えるのかもしれません。

 

当時は私自身も摂食障害だということが抜け落ちるくらい、離婚に向けて全力で舵取りをしていたので、この頃にはもう過食嘔吐に悩むことはなくなってきて結構な不意打ちでした。

 

自分が摂食障害だという自覚も薄くなってきているところ、真実をぶつけてこられたので勝手に「何なの!?」ってなったようにも感じます。

けれども、この自覚が薄くなった時点でもう、過食嘔吐は私にとってほぼ必要のないものになっていたんだろうと感じています。

 

パートと勉強と家事の合間に、ポっと時間が空いた時に、スキマ時間を埋めるかのように「お菓子でも食べようかな」という気持ちの延長に過食があり、

習慣的に「そこに」「いつもと同じ場所に」呼び戻されるように過食嘔吐していたような気がしています。

 

あの頃は今より体重がマイナス3㎏位かなと思うのですが、

確かに痩せていたけど、もう30代終盤でしたし、若い人の拒食症は想像できても、この年代の拒食症なんてあまり想像しないと思いますから、あの歯科医師は凄いなと思っています。

 

歯科医師だけに、もしかしたら私の下がった気味の歯肉を見て、気付いたのかもしれませんしね。過食嘔吐は胃酸を吐き出すので歯肉がやられます。

歯科医師は「アノレクシア(拒食症)」だけでなく、「ブリミア(過食症)」ももれなく知っていたことでしょうから。

 

『神経性大食症(しんけいせいたいしょくしょう、英: bulimia nervosa ; BN)は、神経性過食症とも呼ばれる、一気にものを食べる摂食障害のうち、食べた物を何らかの方法で排出する浄化行動を伴うものである。過食症(かしょくしょう)、ブリミアとも呼ばれる。』

Wikipediaより

 

私がブリミア(bulimia)ではなく、アノレクシア(anorexia)と指摘されたのは、歯科医師の目には私が病的に痩せて見えたのでしょう。

 

心と身体は一致することがストレスのない状態で、外から見ても無理していない自然な姿に映ると考えれば、

アノレクシアにしてもブリミアにしても、

「太りたくないのに食べてしまう」「食べたくないのに食べてしまう」

そして、それを吐き出すことで始末することは、心と身体はガタガタ、どこか私は不自然な印象だったのかもしれません。

 

この件以来何となく、過食嘔吐にしても「見る人が見れば分かるのかな」というようにも感じています。

 

旦那さんが家にお金を入れるようになり、夜のアルバイトは約3か月で辞めました。

長女には「露出してる服着てるのに、ママの色気のなさったらなかったよね」と言われ、

思い返すといろいろ若かったなと思ってしまう出来事でした。

 

管理栄養士としての働き方を見直すきっかけになった歯科医師にお礼を言いたいなと思っていますが、きっと気持ちだけで十分でしょうね。

 

管理栄養士として働き出してから知ったことなのですが、この歯科医師のクリニック、新しい歯科医院の在り方、新しい管理栄養士の働き方として、県内ではちょっと有名な歯科医院でした。

 

そして、

管理栄養士として2箇所目の職場であった特別養護老人ホームに、この歯科医院の訪問歯科が入っていたことには、もっとびっくりしました。

夜のアルバイトから5年後のことでした。

 

今は息子さんが医院を継いでバリバリやっているらしく、

歯科医師のお父様とはお会いすることはありませんでしたが、息子さんはマメに特別養護老人ホームに顔を出して下さいました。

 

息子さんである先生が来られるたびに、

以前お店でお父様とお話して、いろいろ考えさせられ、勉強させて頂きました。

というセリフが何度か頭をよぎりましたが、

自分のアホが丸出しになるだけだな〜とかこれまた何度か頭の端っこで思って、このセリフはいつしか流れていきました。

 

5年前の突拍子もない夜のアルバイトから、変な繋がり方をするものだなと思う出来事でした。

 

過食嘔吐から解放された今の私は、歯科医師からも他の人からもアノレクシアに映ることはないだろうと思っていますが、

それでももし誰かに指摘されるようなことがあれば、やっぱり「え?」と驚くだろうけど、まあ比較的冷静に

「昔そうでしたが今は違いますよ」

と答えられるだろうな〜と思っています。

 

ずいぶんと長くなってしまいました。

今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。